メディカルベンチャーネット、インタービュー企画“このメディカルベンチャーがすごい!!”第3弾は、救急医療を支援するシステム“e-MATCH”を開発し、その全国への普及を推進する新進医療ベンチャー企業バーズ・ビュー株式会社の夏井 淳一代表取締役社長兼CEOへインタビューさせて頂きます。
夏井代表は、元々は、大手医療機器メーカーの研究者という立場から、最終的には、師事したドクターの急逝に伴って、その事業を継承する形で今の代表取締役に就任されました。
大変、ドラマチックなここまでの経緯とこれからの展望をお聞きしました。
会社の始まりはどのようなことからでしょうか?
救急専門医でありテキサス大学健康情報科学の准教授であった青木則明先生がコンセプトメーカーの救急医療管制支援システムe-MATCHを全国に広めるために創立されたベンチャー企業が、バーズ・ビューの始まりです。
初代社長は、青木先生の東大公衆衛生学の教え子の産婦人科救急医の清水先生です。
13年前、奈良県で起こった救急車のたらいまわしにより妊婦が死亡した事件が発生し、マスコミは一斉にマイナス面だけを報道しました。
もちろん、奈良県の救急医療関係者は、手を抜いていた訳ではありません。
この痛ましい事故を繰り返さないためにも、救急医療を俯瞰し見える化を行うことが必須でした。
つまり鳥の目を持つことで救急医療を行なっていくという概念です。
それを具現化したのが、e-MATCHというシステムです。
e-MATCHは、今後も奈良県で運用され、救急医療のPDCAサイクルが回されていきます。
夏井社長は、これまで、どのような経緯で、バーズ・ビューの代表になられましたか?
私はバーズ・ビューが創立された時代、大手医療機器メーカーのデジタルヘルス領域のマーケッターで、全国のイノベーターと呼ばれるドクターに会う毎日を送っていました。
ある日、某急性期病院にて青木先生との運命的な出会いがありました。
青木先生は、外傷患者のレジストリ構築に注力されており、データから描く救急医療を推進している方でした。
私は、青木理論に感銘を受け、その世界に自然と引き込まれていきました。
青木先生と本格的な仕事として寝食を共にしたのが、e-MATCHの全国への普及でした。
しかながら、大変残念なことに、e-MTACHが全国に広がる前に青木先生は急逝されてしまいます。
一度はチームを解散しようかという空気も蔓延しましたが、全国の救急医から、何とか理想を追求して欲しい、火を消さないで欲しいという話が持ち上がり、それに応える形で、我々は清水社長を中心に一丸となって再起動しました。
しかし、神は我々を見捨てたのかという出来事が起こってしまいます。
初代社長である、清水先生も突然死してしまうという不幸に見舞われてしまいました。
悩みに悩みましたが、私は青木先生と清水先生の意思を引き継ぎ、代表となりました。
救急医療で商品開発を行われた理由はございますか?
先にお話した青木先生との出会いが一番大きなきっかけです。
青木先生が救急医療に対して質を高めたいという意欲が高く、私もそれに引っ張られました。
また、意外に知られていないことですが、日本国内の突然死者数は年間75,000人という統計が出ています。
青木先生も清水先生も、最終的には突然死の犠牲になりました。
そのような背景もあって、不幸な突然死を無くしたい、青木先生・清水先生の意志を継いで、さらにこの救急医療の仕組みを全国に浸透させていきたいというのが本音です。
e-MATCHの仕組みを説明していただけますか?
簡単に言うと、これまで、救急車から電話で1件1件受け入れ先を探していた方法をICTでの情報共有に置き換えて、疑い疾患からその地域の搬送実施基準に基づいた対応可能な病院を自動で割り出すシステムです。
現在は、奈良県を始め、複数の自治体で導入されています。
救急車だけでなく、ドクターヘリやドクターカーとの連携も行われています。
1秒を争う救急医療現場に最も必要なのは「情報」です。
病気や事故で救急搬送が必要になったとき、傷病者を搬送する救急車の中では、まず救急隊が患者の様子を観察し、状況にふさわしい適切な受け入れ先医療機関を探します。そしてその医療機関での受け入れ状況を確認し、搬送します。
このとき、各医療機関の受け入れ状況、緊急度判定、緊急度と病態別の受入可能医療機関リストなどが必要となります。
これらの病院選定をスムースにするためには、できるだけ正確な情報を共有することと、意思決定支援の仕組みが重要になります。
e-MATCHでは、目の前の患者の観察・記録を行うと、システムが搬送実施基準に基づいた緊急度と重症度の判定を行い、その患者を受け入れることができる医療機関を現地から最も近い順に表示します。また、患者情報を複数の医療機関に予め伝達する事が可能で、これによって搬送先決定までの時間が短縮できると考えています。
e-MATCHで記録されたデータは、救急搬送の照会、受入、診療の検証を行い、継続的な質改善を目的としたレポートとしてフィードバックされます。救急医療の質にかかわる各種の指標、および照会関連データ、搬送関連データなどを地図にマッピングし、日報ベースでレポートを作れます。
患者さんの現在の状態を把握し入力する。
現在の、受け入れ可能病院を選択し、最善の選択を行う。
バーズ・ビュー社内で現在、行われている事業は、他にどのようなものがございますか?
弊社では、様々なベンダーとコラボして、デジタルヘルスソリューションの開発を行っています。
例えば、臨床研究者向けのソリューションで、多施設共同研究の際にデータを収集し易くするクラウドサービスの提供、IoT化した医療機器ソリューションである携帯型心電計を使ったオンライン診療への展開、災害時のドローンソリューションへの挑戦など。
また、私自身が日本イスラエルビジネス協会の代表理事を務めており、定期的にイスラエルを訪問し、デジタルヘルス大国のスタートアップと日本の企業のマッチングビジネスも進めております。
そして、日本の医療で開発途上国を救う支援事業にも積極的に参画しており、特にラオスの救急医療の質改善に向けて力を入れています。
これまでは、どのように資金調達を行っていらっしゃいましたか?
創立は救急医療の質向上を願うエンジェル投資が中心でしたが、積極的に補助金・助成金の申請を行い、様々な事業開発に参画してきました。
今後は、新規ソリューションの立ち上げに関し、VCからの資金調達も視野に入れています。
今後の目指す方向性、将来像をお知らせ頂けますか?
以前よりノウハウを蓄積してきたのが功を奏し、日本救急医学会が目指す救急患者統合データベース構築事業に参加する機会を得ましたので、国に資するリアルデータ・プラットフォーム企業になるべく邁進するつもりです。
また、スペシャリティーの高いベンダーとのコラボレーションもさらに推進させ、数多くのソリューション開発に勤しむ所存です。
青木先生・清水先生の死を無駄にしないために…。
夏井代表の印象は、常に、活力に溢れ、力強い印象です。元医療機器メーカーの研究者だったというイメージはありません。どちらかというと、お洒落な、IT企業の敏腕社長という雰囲気を漂わせています。
常に新しい情報を吸収し、そして、世界を股にかけて、飛び回る商社マン的な要素も感じられます。ただ、その芯は、筋が通り、絶対に目標を達成するという信念が垣間見えます。
そのようなことから、Forbes日本版でも、記事で取り上げられたのだと思います。
これからの躍進が大いに期待できる夏井代表とバーズ・ビューさんでした。
(取材・執筆:五十嵐 淳哉)
バーズ・ビュー株式会社
代表取締役社長兼CEO
夏井 淳一
1995年、山形大学大学院工学研究科電子情報工学専攻を修了。
大学院時代、病院を研究フィールドとして医師との共同研究に勤しむ。
20代は、医療機器メーカーのソフトウェアエンジニアとして、様々な機器に囲まれて過ごした。30歳の時に、急性期医療ICTシステムの日本向けカスタマイズのためイスラエルに滞在したのをきっかけに医療ICTの世界に入る。
集中治療や麻酔、救急・災害という急性期医療ICTをスペシャリティーとして、現在、医療ICTベンチャーバーズ・ビュー株式会社のCEOとして活躍。
医療におけるイノベーションと故郷の喜多方ラーメンを愛し、日本とイスラエルのビジネスを活性化されるべく、日本イスラエルビジネス協会の理事に就任。
最近の興味は、ASEAN諸国への医療支援に対するICT活用であり、ラオスやカンボジアの医療現場へ足を運ぶ。
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