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医療分野でのVR、ARの導入・活用

最終更新: 2019年5月24日



メディカルベンチャータイムスの第2弾インタビュー記事では、株式会社BiPSEEの代表取締役であり、内科医師である松村雅代氏へのインタビュー記事になります。


松村代表は、元リクルートで営業も行った後に、米国でMBA(医療経営学修士)を取得後に、医学部に学士入学して、医師免許を取得した異色の経歴をお持ちです。

現在も非常勤で医師の仕事も継続しながら、医療向けVR,ARの普及に向けて株式会社BiPSEEを設立されました。


ご自身の興味と関心に向き合い、これまでに日本では導入が遅れている、VR、AR分野での起業をされました。ここまでの経緯と、これからの展望をお聞きしました。



松村先生が、現在の仕事を始めたきっかけ何でしょうか?


もともと、筑波大学を卒業してから、リクルートに勤務していました。その時に、体調を崩して、大学病院に通うことになりました。その時の医師の対応に疑問を感じ、もっと患者に向き合った医療が出来ないのかと考えたのが医療に関わりたいと思った最初のきっかけでした。

医療経営に携わることで医療を変えることが出来るのではないかと考え、アメリカのケースウエスターンリザーブ大学へ留学し、MBA(医療経営学)を取得しました(私費留学)。当時、アメリカ流の医療経営を日本で実践することは難しく、日米の医療系ベンチャーで模索を続ける中、医学というバックボーンを持つことの重要さに気づき、岡山大学医学部に学士編入しました。

心療内科を専門とし、後期研修3年目に発達障害を背景とした適応障害の患者さんに出会ったことで、臨床だけでは解決できない課題に直面。このことが発達障害を持つ方へのサポートに取り組むきっかけとなり、発達障害の方のキャリア支援が、医療におけるVR活用の可能性に出会う糸口となりました(後述)。

なお、臨床医としては、現在も非常勤で勤務を続けています(大人の発達障害外来担当)。



心療内科に進まれたきっかけは?


身体と心の両方を診ることで、患者さん本人の回復する力を最大限引き出したいと考えたからです。心療内科は心身医学(Bio-Psycho-Social-Eco-Ethical model)を基盤とする内科です。初期研修中、治療に真摯に向き合う子供たちの姿に感動し子供たちの努力に応える小児外科にも惹かれましたが、外科領域への自らの適性は高くないと判断。心療内科医となりました。心療内科専門研修3年目、適応障害と診断した患者さんで、独特のコミュニケーションスタイルを持つ方と出会いました。瞬間記憶能力(いわゆるカメラアイ)を持つことに気づいたことがきっかけで、発達障害特性を持っていることがわかりました。職場環境調整を職場に働きかけましたが、十分な理解が得られず、忸怩たる思いを感じました。優秀な人財でありながら職場不適応を繰り返してしまうこと、主治医の立場では職場環境調整を行うことが難しいことを痛感し、発達障害の方のキャリア支援に興味を持つようになりました。


産業医、発達障害のサポートからVRに入る道は?


産業医となり、職場不適応となった社員への環境調整に取り組んでいましたが、産業医には人事権もなく、十分な支援は難しいと考えるようになりました。2012年に任意団体を立ち上げ発達障害の大学生のキャリアサポートを始め、2014年には昭和大学付属烏山病院(大人の発達障害臨床のパイオニア)で、発達障害外来を担当する機会を得ました。発達障害を持つ方のキャリアサポートに本格的に取り組むため、2016年3月に産業医を退職し、5月に、発達障害の方のためのプログラミングスクールの立ち上げにスタッフとして参加しました。第一線で活躍するメンバーが講師として集まる場が生まれ、プログラミング、VR、3Dデザイン等の領域が身近な存在になりました。

米国では、既に医療分野でのVR、ARの導入・活用はかなり行われています。


「医療VR ARの市場規模」

 • 米国では、240を超える医療機関が医療VR ARを導入済

  (出典: US NEWS & WORLD REPORT, Jan. 14, 2019)

 • 世界の医療VR ARの市場規模は、

  2018年末に6億USDに達した

  2026年末には99億2千万USDに達する予想

(出典:Research Solution Insights, Jan. 23, 2019)


程の規模で進んでいて、今後の躍進が期待されている分野です。

帰還兵に対するPTSDの治療にも利用されています。

(出典:“Bravemind” Institute for Creative Technologies, University of Southern California)



手術のトレーニング&シミュレーション

手術の際のトレーニングとシミュレーションに多く導入されています。

(出典:FundamentalVR)


医学教育

医学教育の現場では、解剖学にも活用されています。


(出典:Microsoft HoloLens)


小児を対象としたAR VRの会社を作った理由は?


(前述の)プログラミングスクールの講師の一人が参加していた、子どもの歯科治療にVRを活用するというプロジェクトに出会いました。医療領域におけるVRの可能性を感じ、歯科VRプロジェクトのメンバーの支援を得ながら2017年7月に㈱BiPSEEを設立しました(社名は、心身医学モデルBio-Psycho-Social-Eco-Ethical modelの頭文字)。エンジニアやデザイナーとして、プログラミングスクールの講師や卒業生が参加してくれました。

日本では、医療分野でのVRの利用は、これからという段階ですが、アメリカでは、かなり進んでいます。例えば、痛みに対する注意をそらすことで劇的に痛みを軽減する、ディストラクションという効果の活用です。


熱傷患者に対する、VRゲームを活用した疼痛軽減

火傷の治療には、適していて、痛みの軽減が大きく見られています。

(出典: “Snow world” Human Interface Technology Lab, University of Washington)


ディストラクションとは、具体的にどのようなことですか?


脳は複数の事象に同時に注意を向けることが出来ず、私達は不安や痛みに注意を向けることで初めて不安や痛みを感じるという特性があります。ディストラクションとは気をそらすことで不安や痛みを感じにくくする方法で、音楽やマッサージ等によるディストラクションは日常的に痛みや不安の軽減に活用されています。VRによるディストラクションの特徴は、その圧倒的な効果にあります。VR ディストラクションによる疼痛軽減の有用性は、2000年にUniv. of WashingtonのHoffmanらがPain誌に発表したVRゲームを重度熱傷2名に用いた症例報告で一躍注目を集めました。オピオイドを使用しても耐えられない熱傷治療の痛みをVRが劇的に軽減したのです。fMRIでもVR ディストラクション効果の大きさは確認されています。


現在の取り組みは?


お子様は、治療に対する不安や痛みで治療が困難になる事があります。そのようなことが無いように、AR VRを用いて、子供たちの注意を治療からそらす(ディストラクション)を活用した「BiPSEE医療XR」を開発し、歯科・小児科領域それぞれのサービス仕様を固めています。2019年4月中には、本格サービスをご案内できる予定です。

お子様と保護者が「BiPSEE医療XR」を体験できる機会を増やし、その楽しさと有用性を感じて頂ける活動を行っています。具体的には、「子育Tech委員会(https://www.kosodatech.com/)」という、子育てにテクノロジーを使うことで心身ともにゆとりある豊かな育児を支援するグループ(ITベンチャー10社が参加)にメンバーとして参加しています。子育て世代の親子を対象とした体験会を実施しており、医療×AR VRの有用性を啓発しています(ゴールデンウイーク中も大手デパート等で開催決定)。


小児病棟での、不安や疼痛の軽減

(出典:㈱BiPSEE )


今後のビジョンとしては?


まずは、治療支援サービスである「BiPSEE医療XR」を歯科・小児領域で軌道に乗せることです。言語に依存しないコンテンツなので、国内だけでなくアジアを中心とした海外展開も進めていきます。

更に、私の専門分野、心療内科領域での治療手段となるサービスの開発です。鍵となるのは、①臨床試験を実施して有効性を証明すること、そして、②治療支援サービスの普及を進めることで治療にAR VRを用いることの社会コンセンサスを醸成すること、だと考えています。




松村代表の印象は、聡明で、知的な方が第一印象です。話す言葉の端々に、知性が感じられる方です。そして、これまでの経歴に見られるように、その印象とは異なって芯が極めて強く、自分の信念を貫く力強さも見られます。やはり、これはリクルートで鍛えられたからでしょうか。

個人的に、米国の医療ドラマ「グッドドクター」の中で、VRで外科のオペを行う場面を目にしました。それとは違う視点での今回のVR、ARの医療への導入ですが、これからの医療の在り方に一石を投じる、将来が期待できる技術であると思いました。

将来が大変、楽しみです。

(取材・執筆:五十嵐 淳哉)


株式会社BiPSEE

代表取締役, CEO 松村 雅代, MBA, MD


心療内科医師。


筑波大学卒業後、㈱リクルートを経て、Case Western Reserve University (Cleveland, OH, USA)へ留学しMBA(経営学修士号)を取得(医療経営学専攻)。


米国医療系ITベンチャーSkila Inc. Skila Japan代表等を経て、2002年岡山大学医学部医学科に学士編入し、2006年医師国家資格を取得。


岡山大学病院 総合診療内科・横浜労災病院 心療内科にて心療内科専門研修を修了。


臨床と並行し、㈱NTTデータ等で産業医を務める。


現在も1回/週、都内の医療機関で心療内科外来を担当している。


[専門資格等]

日本内科学会認定医

日本心療内科学会認定登録医

労働衛生コンサルタント(保健衛生)

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